吉松隆さんとキース・エマーソン

投稿者: | 2013年3月30日

「異端にして自由、繊細にして豪快、天翔ること鳥のごとし」

吉松隆さんの還暦を記念するコンサートが、3月20日、オペラシティで行われました。

吉松さんとは、1996年に、ピアノソロの「プレイアデス舞曲集」のCDを作って以来のおつきあいで、私が現代で最も尊敬する作曲家のひとりです。
他にもギター作品集「優しき玩具」や、最近では、「タルカス(オーケストラバージョン)」や大河ドラマ「平清盛」のサウンドトラックをご一緒してきました。
現代音楽界の閉鎖的なアカデミズムに反旗を翻し、異端と言われ続けても、信じる方向を追求し美しい音楽を作り続ける姿勢に共感し、そしてもちろんその作品の魅力に惹かれてきました。
今回のコンサートは、吉松さんの抒情的な側面が味わえるのはもちろんですが、むしろ、もともと「プログレをひとりでオーケストラを使ってやるのが夢」という吉松さんの、ロック的側面が浮き彫りになったプログラムでした。(プログラムはこちら

そして今回のサプライズが、直前になって決定した、キース・エマーソン氏の来日です。 前回の「タルカス」のコンサートの時には、終演後のパーティーで、吉松さんとキースさんが電話で話すという「事件」がありましたが、今回は、是非一度生で聴きたいと言っていたキースさんが、本当に来てくれたのです。

中学の時に、プログレに嵌って、ELPのレコードは全部持っている私にとっても、嬉しい出来事でした。
リハーサルに合わせて来日したキースさんは、早速オペラシティに来て、吉松さんと一緒に、「タルカス」のリハを聴きました。
プログレ好きのコンサートマスター荒井さんも、大興奮。リハなのに、全員すごい熱演でした。

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リハを聴いて気分が乗ってきたキースさんは、「タルカス」が終わるやいなや、いきなりピアノで「タルカス」を弾いたと思ったら、左手は「タルカス」右手は「Happy Birthday to You」。
実はこの日が、吉松さんの60歳の誕生日当日だったのです。

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その後、持ってきていた「タルカス」のフィギュア(オケ版タルカスのジャケットで実写するために、北海道の作家に方に作っていただいたもの)をキースさんに見せると、「これかあ」ということで大喜び。あのジャケットは、元のタルカスのジャケットより出来がいいと評判だよ、などと言いながら、持って写真まで撮らせてくれました。(「タルカス」オーケストラ版CDのことは、こちらに書きました)

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下が元祖「タルカス」のジャケットです。私が中学の時にすり切れるほど聴いたもの。 せっかくなので、サインしてもらいました。

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そして本番当日。 オペラシティは、満員ソールドアウト。
「平清盛」効果もあるとはいえ、現代のクラシック作曲家(変な表現ですが)のコンサートで、こんなことは超異例。

コンサートは3部構成で、第1部は室内楽、第2部、3部がオーケストラです。 吉松さんに縁のある、舘野 泉さん、須川展也さん、田部京子さん、長谷川陽子さんなど、素晴らしい演奏家が勢揃いして、それだけでも贅沢な内容でした。
吉松さんというと、自ら「世紀末抒情派」を標榜していたいただけあって、非常に美しい弦のアンサンブルが印象的で、初期の名曲「朱鷺によせる哀歌」に代表されるように、どちらかといえば「静」の作曲家というイメージが強いと思いますが、実はもともとプログレ好きで、今回のコンサートは、そんな吉松さんの「オーケストラでプログレをやる」という側面が、存分に味わえるものでした。
2部の2曲目以降、最後までの並びは、まさに、それを伝えるために作ったプログラムという感じでした。
■サイバーバード協奏曲(1994) …天空を翔け大地を疾走する超絶のコンチェルト降臨 (サックス:須川展也、ピアノ:小柳美奈子、パーカッション:小林洋二郎)
■ドーリアン(1979) …幻のデビュー作復活!青春のシンフォニックロック
■「平清盛」組曲(2012) …NHK大河ドラマ「平清盛」を彩る壮大な平安交響絵巻
■タルカス(2010)[原作:キース・エマーソン&グレッグ・レイク] …プログレッシヴ・ロックの名曲オーケストラ版
それに応えて、指揮の藤岡幸夫さんと東京フィルも、すさまじい推進力の熱演を繰り広げました。
全てが素晴らしかったのですが、個人的には、「平清盛」のところで、異端児と扱われながら、自分の信念を貫き続け、それが次第に演奏家や聴衆に支持され、ついにはここまでのコンサートに結実した吉松さんの生き方が、清盛に重なり、胸が熱くなりました。
「タルカス」では、隣に座っていたキースさんが涙ぐむほど、気合いの入った演奏で、前回のCDをしのぐ名演。
今回の演奏会も録音してよかったと思いました。
そして「タルカス」の終曲が終わると、もの凄い拍手とブラボーの嵐。 壇上に、吉松さんとキースさんが呼ばれると、スタンディングオベーションに。 もちろん、私も立ち上がらずには居られませんでした。

終演後は、ロビー打ち上げの後、主立ったメンバーで、吉松さん、キースさんを囲む打ち上げ。 

「タルカス」をオーケストラでやるのは、吉松さんの夢だったと同時に、実はキースさんも、「タルカス」は最初に書いたときから、いつかはオーケストラでやれたらと思っていたそうで、ふたりの偉大な音楽家の夢が交差した、素晴らしい夜でした。

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人は、中学の時好きだったものが、たぶんその人の原点だと思うのですが、この日は、中学時代にプログレに嵌った人が3人も。吉松さん、コンマスの荒井さん、そして私です。
3人にとって、キース・エマーソンといえば、当時はLPをすり切れるほど聴くしかない憧れの音楽家だったわけですが、そんな人と、人生の後半になって一緒に仕事ができるなんて、夢を見ているような、幸せな出来事でした。
誰に何といわれようと、自分の信じることを誠心誠意追求していけば、最初は辛くても、気がついたときに、道が拓けてくる、そんなことを強く感じた夜でした。

そしてもうひとつ、私にとって嬉しい偶然は、このコンサートをプロデュースした、吉松さんの担当マネージャー、ジャパンアーツの大沼千秋さん(この写真を撮ってくれているので写っていないのですが)が、私のIBM時代の同じ部署の同僚だということです。
当時で既に2万人の社員を抱える大企業だったIBMですから、同じ会社といっても、ほとんど分からないのが普通なのですが、大沼さんはよく知っている人だったので、もう随分前ですが、音楽業界で再会したときは本当にびっくりしました。
常にチャレンジし続けるという点で、IBM時代の同僚ということを超えて、共感できる人だったので、こうやって最高の仕事をご一緒できて、とても幸せでした。

そして、キースさんが帰国する前に、吉松さんと対談をしようということで、後日、コロムビアで再び吉松さんとキースさんが再び顔を合わせました。
実は、ふたりともお父さんが電話関係の技術者だったというような不思議な共通点があったり、「タルカス」というタイトルはどうやってつけたか、バッハの素晴らしさ、作曲の仕方など、いろいろな話が飛び交い、予定の1時間半を大幅に超えて、盛り上がった対談でした。
その内容は、今回のコンサートを収録したライブCDのブックレットに掲載する予定ですので、ご期待ください。

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これからはクラシック演奏家とのコラボレーションをしてみたいと語っていたキースさんとは、何かまたご一緒できればと思っています。


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