どんな人に聴いて欲しいか

投稿者: | 2015年2月8日

たまに取材を受けるときによく聞かれる質問に、「どんなに人に聴いて欲しいですか」というのがあります。
もちろん、喜んで聴いてくださるなら、あらゆる方に聴いていただきたいと思うのですが、私なりのイメージはあって、作品によっても、微妙に違うのですが、根底にあるものは共通しています。

それは、生活の中の音楽という感覚です。

人は、日々、生きていくために働いている、その形は、家事や子育ても含めて様々だと思いますが、何らかの方法で人の役に立つことで、世の中に存在している。その生活の中で、人が音楽を求める気持ちに、応えられるような作品を作りたいと思うのです。

私自身、大学を出て、最初の5年間、音楽業界とは全く関係ない、IBMというコンピューター会社で、システムエンジニアをやっていました。
もともとは文学部で哲学を学んでいたので、そもそもなんでIT業界なのか(当時はITという言葉はありませんでしたが)、というのもありますが、当時は、自分でも何がやりたいのかはっきり分からず、まずは社会に出て、全く違う、最先端の分野で働いてみたかったのです。
毎日朝9時から、夜はほとんどタクシー帰りという感じで働いていたのですが、若い時から大きなプロジェクトを任せていただけたおかげで、それはやりがいもあり、楽しく充実した日々でした。
そんな中、家に帰ってくると、神経が高ぶっていて、すぐには寝られないのて、寝る前に必ず、好きな音楽を聴いていたのです。
クラシックを中心に、ジャズやワールドミュージックなど、特に、ブルックナーやマーラーの緩徐楽章、ベートーヴェンの晩年の弦楽四重奏曲やピアノソナタは定番でした。
余談ですが、その後この世界に入ったときに、「アダージョ・カラヤン」というアルバムが他社から出てヒットして、やられた!と思いました(笑)

当時はもうCDの時代でしたが、中古のLPで、古い名盤も随分集めたりしました。
コンサートや好きだった歌舞伎も、休みの日にでかけました。

学生時代は、現代音楽も好きで、実験的な作品もかなり聴いていたのですが、働き始めると、そういう「芸術のための芸術」は正直疲れてしまい、一部のものを除いて、聴かなくなってしまいました。

そんな自分の経験もあり、音楽とは、日々の生活の中で、深い喜びを与えてくれるものだと思っています。
音楽の世界に入って、もう24年近くになりますが、未だに私の原点は、IBM時代の5年間にあって、それを忘れずに仕事をしていきたいと思っています。

最近知ったドキュメンタリー映画で、「パーソナル・ソング」というのがあるのですが、認知症やアルツハイマーの方が、若い頃に好きだった音楽を聴くと、感情が蘇り、失われた記憶さえ呼び覚まされるそうです。
形は変われども、音楽の力は変わらない。それを信じて、しみじみといいなあと思っていただけるものを、ご提供できるように努力していきたいと思います。

 

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です